ひとり親が用意しておくべき遺言書

親亡き後の心配

「自分が死んだら、この子はどうなるんだろう?」「別れたあの人が勝手に親権者になってしまうの?」

ひとり親で子を育てているシングルマザー・シングルファザーの方はこういった大きな心配があると思います。心配を少しでも小さくするために、一人親が用意しておくべき遺言書があります。まずは、未成年後見(みせいねんこうけん)という制度について知っておいてください。

未成年後見人とは

子が未成年の間、子は親の親権のもとで生活します。

親権者は、子の監護教育と財産管理を行います。財産を処分する場合は、親権者が子の代わりに法律行為を行います。原則として、子ども単独では法律行為ができません。それは、未成年の間は判断能力が不十分であるため、単独で法律行為をさせると損をしたりすることがあるからです。

判断能力が十分でない未成年が騙されたり、軽はずみな判断で損をしたりすることがないように、民法はいろんな工夫をしています。

その一つの工夫が、未成年後見人の制度です。

親権者がいなくなったときは、未成年後見人が未成年を守る存在となります。「後見」という言葉には、「うしろだてとなって陰で支える」という意味があります。後ろからすっと手をそえてサポートする・見守る、というイメージです。

未成年後見開始の要件(民法838条)

① 未成年者に対して親権を行う者がないとき

② 親権を行う者が管理権を有しないとき

たとえば、一人しかいない親権者(単独親権者)が死亡した場合は、「未成年者に対して親権を行う者がない」ということになって、未成年後見が開始します。

いつかは法定代理人が必要

実際は、周りの大人、たとえば祖父母やおじ・おばなどの親族が身の回りの世話をしていることがかもしれません。しかし、いくら親族であっても、その未成年者の法定代理人としてこうどうすることはできません。

親権者がいなくなった直後は特に大きな問題がなかったかもしれませんが、どこかの時点で法定代理人が必要になってきます。例えば亡くなった親から相続した財産について遺産分割の手続をするとか、財産を処分するとかの場合には、法律上、法定代理人が必要です。

未成年後見人を選ぶ方法は2つ

未成年後見人を選ぶ方法としては2つあります。

  1. 自分で遺言書を書いて、未成年後見人を指定する方法
  2. 裁判所に選任してもらう方法

もし、自分が亡くなった後の子どもの世話を誰かに頼みたいのであれば、遺言書で未成年後見人を指定しておくことを強くお勧めします。①の方法と違って、②裁判所に選任してもらう方法では、申立人が「この人を未成年後見人にしてください」と指定することはできないからです。

遺言で未成年後見人を指定する

1つ目の方法です。

「未成年者に対して最後に親権を行う者」は、遺言で未成年後見人を指定することができます(民法839条1項)。離婚後に単独親権者として子を育てている一人親や未婚のシングルマザーは、「未成年者に対して最後に親権を行う者」にあたります。遺言で未成年者後見人を指定していた場合は、遺言した人が亡くなったあとは、指定されたその人が未成年後見に就任します。

未成年後見人になれる人

未成年後見人になるには一定の条件がありますが、それ以外であれば遺言者が自由に選ぶことができます(法人を選んでもよい)。未成年後見人は、一人だけでなく複数人を選ぶことができます。未成年後見人は、基本的には全員で共同して後見人の事務を行います。

未成年の利益を守るため、こういった人は未成年後見人になれません。①未成年者、②家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人、③破産者、④被後見人に対して訴訟をし、またはした者並びにその配偶者及び直系尊属、⑤行方の知れない者(民法847条)。

監督する人も選べる

遺言で未成年後見人を指定する際に、未成年後見監督人を指定することもできます。未成年後見人の配偶者、直系血族及び兄弟姉妹は後見監督人になることができません(民法850条)。あまりに親しい間柄だと、中立公平な「監督」が期待できないからです。

遺言の種類

遺言の種類は、自筆証書遺言でも公正証書遺言でもどちらでも構いません。ただ、自筆証書遺言だと検認手続が必要なため、未成年後見人に指定された人がその仕事を開始するまでに時間がかかります。そうすると、親の相続財産をすぐにつかえないなど不便なこともでてくるので注意が必要です。

遺言内容を早く実現できる公正証書遺言を作成することをおすすめします。自筆証書遺言や公正証書遺言の作成方法については別の記事で紹介します。

 誰かに事前に頼んでおきたいなら遺言を書くべき

上にも書いた通り、もし、自分が亡くなった後の子どもの世話を誰かに頼みたいのであれば、遺言書で未成年後見人を指定しておいてください。ひとり親家庭の場合、経済的に余裕がない場合もあるかと思いますが、万が一に備えてできる準備はしておいた方が安心です。


 

【まとめ】

① 未成年に親権者がいなくなったら後見がはじまる

② 未成年後見人を選ぶ方法には、自分で選ぶ方法と裁判所に選んでもらう方法がある

③ 未成年後見人を自分で選ぶには、遺言書で未成年後見人を指定する必要がある